谷中着付け屋ブログ

色と糸と織と 志村ふくみ

Posted on 5月 2nd, 2013 by kimono

志村ふくみ

日本の名随筆58 着物 鶴見和子編

枝を折ってみますと、折口も紅いのです。きよらかな紅が少しの酸でうるんだような、成熟した梅の果肉の一部にもこんな色をみることがありますが、折口のその紅色をみた時、私はその色をこちら側に宿したい思いがしました。咲かずに切りとられた幾千の梅の蕾を私は抱きたいと思いました。

この箇所を読んだ時、私はドキドキしました。二月の澄んだ冷たい空気に、志村さんの色に対する心の動きが染みだして行くような、、
折口の紅色を想像する時、志村さんのその気分に触れたような気がしました。

その十段階に近い藍の濃淡に、黄色の染料、刈安、山梔子、黄檗、沖縄の福木などで染めた黄色をかけ合わせますと、それぞれ少しずつ違った赤味や青味の黄に十段階の藍がかかり、緑のバリエーションが生まれます。
初冬、橙色に熟しきった山梔子の実を煎じて染めた黄色はあたたかく黄金色にかがやいていますし、穂を出す前に刈りとる刈安を染めますと(椿媒染)、青みのある金属質の黄色になります。沖縄の福木の黄は明るいレモン色です。
それらの黄色をしっかり糸に定着させ、最も盛りのある縹色にかけ合わせますと、まぶしいほどの緑が生まれます。青と黄、水と光、自然はこの二つを結合させることよって、緑を誕生させました。

人間が初めて色を自然から人間の世界に宿した時代。志村さんはその時代と呼吸していると思いました。
普段私たちの目にする多くの色が #d7003a のように記号化されていますが、その色とは明らかに違いますね。次元が違う。

人間は色を身にまとうことで、自然の力を手に入れようとしていたのではないのか、ふとそんなことを考えました。

出張着付け、谷中着付け屋

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